TSUKUCOMM-49
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16心臓の病気は治療が難しく、重篤な場合は、心臓を構成する筋肉(心筋細胞)が壊死して硬化(線維化)し、心不全に至ります。心臓移植という治療法もありますが、ドナーを見つけることが難しく、機会は限られます。そのため、iPS細胞などを使った心筋細胞の再生に期待が集まっています。しかし、iPS細胞から心筋細胞へ分化させて心臓に移植する手順は複雑で、せっかく作った心筋細胞が正常に働かないこともあります。そこで、医学医療系の家田真樹教授らは、心筋を誘導する遺伝子を心臓患部に直接導入し、その場で心筋を作るという方法を開発しました。開胸手術や移植が不要で、将来の心臓再生法として有望です。ところが、同じように心筋細胞を誘導しても、培養皿で行う場合よりも、マウスの心筋上、つまり実際の生体内環境で行う方が、出来上がった心筋細胞は成熟した性質をもっています。そこで、この違いが何によってもたらされるのかを探りました。そのポイントは、心筋細胞が作られる場所(基質)の「硬さ」でした。生体内でも臓器の硬さはいろいろで、心臓と比べて、脳は10分の1、骨は10倍、プラスチック製の培養皿は10万倍もの硬さです。そこで、硬さの異なる基質を用いて心筋細胞を誘導したところ、健常な心臓と同等の硬さの基質で、最も効率よく心筋細胞が得られたのです。このとき、基質からの刺激を細胞に伝えるシグナルや、線維化を引き起こす遺伝子の発現が抑制されていることも分かり、よりよく心筋細胞を誘導する条件が明らかになりました。心臓再生医療だけでなく、様々な心臓病の治療にも役立つことが期待されます。1玉数千円~数万円もするものまであるマスクメロン。美しい網目と、香水の原料にも使われるジャコウ(musk)に似た香りが特徴で、品種としては「アールスフェボリット」と呼ばれるものです。1925年にイギリスから伝わり、様々な品種改良を経て、高級フルーツの代表格となりました。現在、日本だけがこの品種を生産しており、海外での需要も高まっています。マスクメロンは湿度や病気に弱く、栽培に手間がかかることが、高価格の原因です。この問題を解決するには、さらなる品種改良が欠かせません。生命環境系の江面浩教授は、農研機構との共同研究により、品種改良の鍵となる、マスクメロンの全ゲノム情報の解読に成功しました。ゲノム解読の対象は、育種にも用いられる「アールスフェボリット春系3号」という標準的な品種です。高等植物のゲノム配列には、反復するものがたくさん含まれており、そのような領域が解読できないまま(未決定領域)残されることも珍しくありません。しかし、長鎖のDNA配列情報をリアルタイムで読み取ることのできる第3世代シークエンサーと、ゲノム構造データを組み合わせることで、マスクメロンのゲノム配列(全長378億塩基対)を、未決定領域わずか94個という高い精度で解読しました。またこれを、それぞれの遺伝子がどこでどのくらい働いているかを示すマップとともに、データベース化して公開しました。このようなゲノム情報をもとに、香りや食味を改良したり、より栽培しやすい性質を持たせることが容易になります。日本の誇る高級フルーツが、手に入りやすくなるかもしれません。高級マスクメロンをもっとおいしく心筋細胞は、心臓と同じ柔らかさの場所で効率よく作られるRESEARCH TOPICSプラスチック製培養皿(左)と比べ、心臓と同等の柔らかい基質上(右)で、心筋誘導効率が改善した。(心筋の構造タンパク質αアクチニンを赤色、細胞核を青色で染色。スケールバーは100µmを表す。)(Kurotsu S, et al. Stem Cell Reports. 2020. より引用)アールスフェボリット春系3号

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