TSUKUCOMM-49
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■知られざるドーパミンの働きドーパミンという脳内物質の名称を聞いたことのある人は多いでしょう。以前から快楽物質としてよく知られていましたが、近年、それだけではなく、学習や動機付け、行動抑制などにも関わっていることがわかってきました。中脳という脳の奥の方に存在し、ドーパミンを作り出す神経細胞であるドーパミンニューロンに障害が起きると、情動とは関係ない部分にも影響が生じます。例えば、ドーパミンニューロンが80%ほど失われると、運動や認知機能に様々な症状が現れるパーキンソン病を発症します。薬物依存症や強迫性障害などにおいて、合理的な意思決定ができなくなるというのも、ドーパミンニューロンの異常によって起こる症状の一つです。こういった症状が起こるメカニズムがわかれば、治療法も開かれます。快楽物質だと考えられてきたドーパミンの産生と、意思決定のプロセスとの間に、どのような関係があるのでしょうか。■より高次の脳機能を探る合理的な意思決定というのは、認知機能が発達した生物に特有の行動です。脳科学の研究ではマウスを用いることが一般的ですが、ヒトとマウスとでは脳の構造、すなわち脳の発達の程度が異なっており、マウスの行動が、ヒトの脳と同じ仕組みで起こっているとは考えにくい側面があります。そこで、よりヒトに近い脳の機能を理解するために、サルを使います。実験動物としてサルを扱うことができる研究機関は、国内でもごく限られており、その点では、筑波大学は恵まれた研究環境だといえます。意思決定に関する実験では、様々なタスクをサルに行わせ、その時のドーパミンニューロンの活動を観察します。より価値の高い行動、つまりより合理的な選択をした時に報酬を与えるようにすると、サルはそれを学習して、価値判断をするようになります。このときのドーパミンニューロンの活動を解析してみると、思考や判私たちは日々、多くの意思決定をしながら暮らしています。その中には、どちらが得か、というような選択を迫られることも少なくありません。より得な行動を選ぶ合理的な意思決定は、どのような脳内メカニズムで行われるのでしょうか。その鍵となるのが「ドーパミン」、そしてこれを作り出す神経細胞「ドーパミンニューロン」です。ドーパミンニューロンの働きを調べ、それが意思決定において果たす役割を探っています。医学医療系松本 正幸教授Masayuki Matsumoto快楽から意思決定までドーパミンニューロンが担う多様で複雑な働きに迫る

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