TSUKUCOMM-50
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20「褒めて伸ばす」というのは単なる経験則ではありません。他人から褒められると、金銭的報酬を得たときと同様の脳活動が起こることが分かっていますし、精神的な満足感だけでなく、運動技能の習得にも効果があることも報告されています。それでは、人は、ロボットなどの人工的な存在(エージェント)に褒められても伸びるのでしょうか。システム情報系の飯尾尊優助教らの研究グループは、物理的な身体を持つロボットとディスプレイ上のCGキャラクターの2種類のエージェントを用いて、96人の大学生を対象に、特定のキーボード操作を覚えるというタスクを行う際、これらのエージェントに「頑張っていて偉いね」「正確にタイピングできるようになってきたね」などと褒められると、パフォーマンスがどのように変化するかを調べました。その結果、褒めてくれる相手が人ではなくエージェントであっても、運動技能の習得が促進されることが分かりました。さらに、1体よりも2体のエージェントに褒められると、よりパフォーマンスが向上すること、褒められる効果には、エージェントの種類による差がないことも明らかになりました。エージェントとのポジティブなコミュニケーションが、人の自己肯定感を高めることは以前から示されていましたが、本研究により、物理的であっても仮想的であっても、姿のあるエージェントに褒められることが、具体的な運動機能の習得にも同様の効果をもたらすことが証明されたわけです。また、より多くの他者に認められることが重要である可能性も示唆しています。腸内細菌が様々な面で健康に影響を及ぼしていることは、近年の研究でよく知られるようになってきました。糖尿病やがんなどの疾患や、体の免疫力との関連などが報告されていますが、腸内細菌が睡眠にも関わっていることが、国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)の柳沢正史教授らの研究によって明らかになりました。腸内環境と脳機能との間には「脳腸相関」と呼ばれる相互作用があり、心身の健康維持に重要な役割を担っています。ですから、脳機能の一つである睡眠も、腸内環境から何らかの影響を受けている可能性が考えられます。そこで、腸内細菌の有無によって、睡眠にどのような影響が生じるかを調べました。抗生物質によって腸内細菌を除去したマウスを使い、腸内の代謝物質を解析したところ、正常なマウスと比べて、神経伝達物質の合成に関係するアミノ酸の代謝が大きく変化していました。また、脳波や筋電図から睡眠状態を分析してみると、腸内細菌を除去したマウスでは、夜行性のマウスが本来寝ているはずの日中にノンレム睡眠が減少し、活動するはずの夜間にレム睡眠、ノンレム睡眠とも増加していました。つまり、腸内細菌がなくなると、腸内の代謝が変わるとともに、昼夜の睡眠と覚醒のメリハリが弱まり、睡眠の質が低下することが分かったのです。食事も睡眠も私たちの健康には欠かせないもの。腸内細菌の働きと睡眠の質が互いに影響し合うメカニズムがわかれば、食習慣を整えることによって、多くの人が抱える睡眠の悩みが解決できるようになるかもしれません。腸内細菌と睡眠の意外な関係人はロボットに褒められても伸びるRESEARCH TOPICS腸内細菌叢を除去したマウスでは、神経伝達物質合成に関連するアミノ酸代謝が腸管内で大きく変動した。また、睡眠・覚醒パターンの昼夜のメリハリが弱まり、本来マウスが活動する夜間にレム睡眠・ノンレム睡眠とも、より多く生じた。指運動のトレーニングをする被験者と、それを見るロボット

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