TSUKUCOMM-51
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06聴ことにあります。それまでは、そういった誤差をできるだけ取り除くために、王道としての「力技」が用いられてきたわけですが、地球内部を完全にモデル化できないと認めてしまえば、もっと楽に解析ができると考えたのです。そこで、この誤差を統計学的に扱い、モデルの中に取り込んでみると、実際に起こった現象をより良く表現することができるようになりました。 この解析手法を提案したのは2011年のこと。当初は単独のフロントランナーでしたが、その有効性が認められるにつれ、どんどん研究者が参入してきました。それによって手法自体の改良も進み、今では提案したアプローチが王道のような位置付けになっています。一つの流れができたら、その流れに乗り続けるより、新しい流れを作りたくなるものです。今は、提案したアプローチとは、真逆に近い解析手法を提案しようとしています。新しいアプローチを提案していくことは、限られた研究リソースを有効に活かすための戦略でもあります。阪神淡路大震災をきっかけに 子ども時代を過ごした岩手県釜石市の周辺は、昔から何度も津波に襲われている地域です。そのため小学校でも、地震や津波に関する授業や、防災教育が盛んに行われました。それが地震に興味を持つようになった最初のきっかけでした。この興味が研究対象としての関心へと具体化されたのが、大学生の頃に経験した阪神淡路大震災です。短時間の揺れで、地域一帯が大きく壊れてしまうような出来事にショックを受けると同時に、なぜそのような現象が起こるのか、震源で何が起こっているのか、知りたいと思うようになりました。 研究者になって最初に取り組んだのが「地震のカタログ」作りです。地震がどのように発生し、どのように成長していくのかということが記述された新しい地震のカタログがあれば、地震の理解が進み、標準的な地震像がわかり、特殊な地震を見つけることができると考えていました。ところが実際には、一つの手法であらゆる地震を解析しようとしても、適切な結果は得られませんでした。当時の研究者たちは、個々の地震を自分なりに工夫した断層モデルと解析手法でそれぞれ解析していたのです。これでは同じ地震でも、研究者によって異なる姿になってしまいます。全ての地震に適用できて、安定な結果が得られる、堅牢な解析手法がない限り、地震で何が起こったのか記述するカタログを作ることはできません。 そんな中でひらめいたのが、「分からないことは分からないとして扱う」というアイデア。スランプに陥っていた研究が、これで再び動き始めました。より早く、より練って 近年、日本では大きな地震が頻発していますが、それらも、解析対象となる地震としてはやや小規模な部類に入ります。データが多く、解析に適しているのはマグニチュード8クラスの巨大地震です。世界中の地震データは公開されており、誰でも利用することができますから、この分野で研究成果を出すには、地震が発生してから、どれだけ短時間で結果を出せるか、そして、どれだけ練られた手法で解析するかが勝負どころ。もちろん、結果を他の情報と統合しTSUKUBA FRONTIER

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