TSUKUCOMM-52
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05言語は未来遺産 日本語の文法を説明できる人はどのくらいいるでしょうか。私たちは、主語や述語といった文章の構造を意識することなく、また、特別に教わったわけでもないのに、日本語を使うことができます。それは、人間の体の構造をよく理解していないのに、自分の体を使っているのに似ています。 言語は、誰が作ったのか分からないものですが、私たちが生まれるずっと前から存在し、共有され、伝えられてきました。そして私たちも次の世代へと伝えています。文字として残されるものももちろんありますが、実は、「話す」というごく日常の行為を通じて、私たちは未来へと遺産を継承しているのです。つまり、言語は未来遺産。言葉を正しく使おう、ということが言われるものの、現在使われている言語自体、古典的な言語とは全く異なっています。言語は、使われ、伝えられる中で、さまざまな外界の知覚や認識を受けながら少しずつ変化し、新しい形になる、それが続いていくのです。 物理的な重さや形を持たない言語が、どうやって存在しているのか。話者がいることが、その言語の存在意義ということになります。話者がいなくなれば、その言語は世の中から消えてしまいます。私たちは、日本語の存在を疑うことはありませんが、私たちが日本語を話していることこそが、日本語の存在証明です。でもよく考えてみると、それだけで日本語の存在や言葉の力を実感できるというのはとても不思議なことというほかありません。言語の多様性が人類を救う 英語の重要性が謳われ、小学校でも英語教科が導入されています。英語は世界の共通言語となっており、誰もが学ぶべき言語であることに疑うところはありません。けれども、世界中の言語が英語だけになってしまったらどうでしょう。先述の通り、言語は話者がいなくなったら滅びてしまいますから、英語しかない世界というのは、人類の生存を脅かしかねないものでもあるのです。 その一方で、学術やビジネス、テクノロジーなどの分野では、英語ですべてを統一人文社会系 教授青木 三郎聴

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