TSUKUCOMM-52
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09めきれませんでした。ミステリーや現代ものも書きましたが、自分で書いていていちばん筆が進むのが中国ものだということに気づいて、今は中国の時代小説を中心に書いています。歴史の中に埋もれてしまったような実在の人物に焦点を当てて、史実を基にしつつ、架空の人物を交えて物語を作っています。一人目の子どもを出産した頃に、このままデビューせずに終わってしまうのかな、なんて思ったことがあって、そこで気合を入れて中国史をみっちり勉強したのが、デビュー作につながりました。大学での学びは作家としての 活動に役立っていますか 高校生の頃は、将来やってみたいことがたくさんあって、進学先の候補もいくつか考えましたが、入学した時点で道が限られてしまうように感じました。担任の先生が筑波大の卒業生だったこともあって、筑波大なら入学後も幅広く勉強できると聞き、それで決めました。 実際に入学して、すごく多彩な大学だという印象を受けました。変わった人というか面白い人がたくさんいて驚きました。留学生も多くて、しかも自分よりずっと年上だったりして、とにかくいろんな人がいるというのに感動しました。 日日(日本語・日本文化学類)だったので、今の作品作りにあらゆる面で役立っていると思います。ものを書くことや、勉強をする姿勢は、やはり大学で学んだと思いますし、今思うと、授業で教えてもらったことに、つまらないものはなにもなく、物語の中で全部使えそうな気がします。先生たちも、学生のやりたいことに対してとても肯定的で、そういう経験も、試行錯誤しながら自分の可能性を追求していける土台になったのかなと。これからどんな作品を書いて いきたいですか やはり、見逃されてしまったり、誰にも気づかれなかったような出来事や感情を、丁寧に発掘して表現したいというのが一番です。歴史って勝者や官僚の記録でもあるので、実際には教科書に出ているようなことだけではないし、調べていくと、敵味方に関係なく、惹かれてしまう面白い人物がたくさんいるんです。そこに、中国ならではのスケール感や自分なりのキャラクターも加えて、新しい物語として光が当たるようにしたいですね。そうやって書いたものが、多くの人に読んでもらえれば嬉しいです。後輩たちに対してメッセージをぜひ 今は、いろんな意味で、自分の頃とは状況が全く違いますよね。コロナもあるし、社会的な環境も厳しくて、辛い日々を送っている人もいるでしょう。そういう時には、無理せず、気持ちを声に出して打ち明けて欲しいです。筑波大には、多様な人々がいて、学生をサポートする組織もたくさんあります。そういうところにいっぱい頼っていいと思うんです。もちろん、最後に決めるのは自分だし、その時の馬力になるのは負けん気みたいなものだと思いますが、一人で頑張り過ぎないで。応援しています。PROFILE ちば ともこ1979年 茨城県生まれ2001年 筑波大学日本語・日本文化学類卒2002年 茨城県庁に入庁、山村正夫記念小説講座に入る。2020年 『震雷の人』で第27回松本清張賞を受賞して、「千葉ともこ」の筆名で小説家デビュー。現在はデビュー作の2作目や『オール讀物』(文藝春秋)で中国の神獣をコンセプトにした小説、『小説新潮』(新潮社)で杜甫《飲中八仙歌》をモチーフにした小説などを執筆中。小説教室(山村正夫記念小説講座)出身の作家と「ケルンの会」を結成左から、坂井希久子、成田名璃子、美輪和音、西尾潤、千葉ともこ、新川帆立(撮影:大泉美佳 敬称略)写真:文藝春秋写真部

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