TSUKUCOMM-53
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07にすることで脳を活性化させるものです。そのときに、記憶を呼び起こすきっかけとして、本や絵葉書、音楽、古い道具、石けんの香りなどなど、いろいろなもので五感を刺激します。海外では、図書館が、地域に残っているそういった資料を集めて、回想のためのキットとして貸し出しを行っています。これは、認知症の本人や支援者と一緒につくるサービスとしても有効で、日本でも同様の活動に向けた検討が始まっています。 また、回想するための手法として綿抜豊昭教授(本学図書館情報メディア系)考案の「思い出し俳句」を提案しています。昔の思い出を俳句で表現し、図書館で「句会」を開いて、みんなが作った俳句をお互いに評価します。評価といっても、文学的な良し悪しではなく、その句からどれだけ昔のことを思い出せたかがポイントです。個人の思い出でも、俳句になると、そこからそれぞれの記憶がよみがえり、句会は大いに盛り上がります。誰もが居心地のいい図書館へ かつて認知症は、痴呆症などと言われ、差別的に捉えられる側面がありました。認知症になったら病院や施設へ、という対応も行われてきました。しかし昨今では、私たちの普段の暮らしの中で、認知症の人もともに過ごす、という考え方が世界的な流れです。交通機関、金融機関、学校など、あらゆる場面で、そのような考え方が取り入れられつつあり、図書館の取り組みは決して特別なものではありません。敢えて認知症にやさしいということを掲げなくても、そのようなサービスが提供されることが理想です。 図書館は公共の場。誰でも目的を問われず、無料で利用することができます。「屋根のある公園」といわれるほど、自由で開かれた場所であるのが図書館です。迷惑をかけてはいけない、と遠ざかってしまうのではなく、むしろ、自分が認知症になった時に居心地のいい図書館と考えると、これからの在り方が見えてくるはずです。超高齢社会と図書館研究会超高齢社会における図書館について考える研究会として、2016年に発足。図書館による高齢者を対象としたサービスにとどまらず、図書館という「場」を活用した世代間交流、高齢者の生きがい支援、高齢者の知恵や経験を生かした図書館サービス、認知症の人やその家族の居場所としての図書館、認知症への理解を深めるための普及・啓発など、超高齢社会における図書館のあり方をともに考え、話しあい、実践している。URLhttp://www.slis.tsukuba.ac.jp/~donkai.saori.fw/a-lib/PROFILE京都大学での図書館員を経て、1998年7月より本学で、教育・研究に従事。博士(創造都市)。専門は、図書館情報学。研究テーマは、知識情報による共生社会の創出、認知症にやさしい図書館(Dementia Friendly Libraries)。主な著書に『高齢社会につなぐ図書館の役割:高齢者の知的欲求と余暇を受け入れる試み』(学文社、2012)、『超高齢社会と図書館:生きがいづくりから認知症支援まで』(国立国会図書館、2017)など。現在、知識情報・図書館学類長。

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