TSUKUCOMM-54
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05覚醒を維持するペプチドの発見 1998年、新しいペプチド(アミノ酸がつながった集合体)「オレキシン」を同定したことが、睡眠研究を始めるきっかけとなりました。脳内にある未知の物質を網羅的に調べていく中で見つけたもので、当初は、このペプチドがどんな作用をするのか全く分かりませんでしたが、マウスに投与すると、とてもたくさん食べるようになることから、食欲に関係するのではないかと考えていました。しかし実際には、オレキシンの機能は覚醒を安定化させることでした。起きている時でなければ食べることはできませんし、お腹が空くと目が覚めます。その点では、食欲との関係も間接的に説明することができます。 オレキシンの機能が分かってくると、世界中の研究者がこの分野に関心を持つようになり、睡眠と覚醒に関する研究は急速に進展しました。オレキシンが、神経細胞のうちのどこで作られ、どこに信号を送っているのか、つまり、睡眠と覚醒をコントロールするスイッチとなる神経回路が脳内のあちこちに存在していることが、次第に明らかになりつつあります。これらのピースをつなぎ合わせていくと、そのスイッチの全容が見えてくるはずです。睡眠・覚醒のスイッチはただ一つではなく、脳全体の作動モードを大きく切り替えるためのプロセスが必要なのです。睡眠の役割 私たちの脳は、寝ている間も活動しています。睡眠時は覚醒時とは別の活動様式で脳が機能しているのです。眠りの深さは、レム睡眠とノンレム睡眠の違いで説明されることが多いですが、そうではありません。睡眠の深さはノンレム睡眠の中にあるのです。脳が部分ごとにパッチワーク的に活動していると眠りは浅く、脳全体が均質に睡眠状態になると深い眠りに入ります。 睡眠中は意識がなく、脳の機能も落ちていますが、それでもノンレム睡眠中の脳内では、情報の整理が行われています。起きている間に学習した膨大な情報を、フォルダごとに整理して階層化し、不要なものを医学医療系/国際統合睡眠医科学研究機構 教授櫻井 武聴

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