TSUKUCOMM-54
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071個のレベルで見ることができるようになりました。さまざまな行動をする前後で、特定のシナプスを追跡してみると、全く異なる状態になっていることも明らかになっています。睡眠も大脳皮質のシナプス構築に大きく影響を及ぼします。 こういった顕微鏡や分析装置、神経細胞を操作したり遺伝子を改変する技術は、研究の進展に欠かせません。最新テクノロジーを駆使して、睡眠中に脳が行っている働きを、シナプスレベルでより詳しく調べていくことが目下のテーマです。睡眠研究のその先へ 最近は、睡眠・覚醒からさらに進んで、冬眠についての研究にも取り組んでいます。冬眠のパターンは動物によっていろいろですが、何ヶ月も寝たままというのはほとんどなく、数日間眠って、少し起きて、また寝る、というようなことを繰り返しています。冬眠は、睡眠とは全く異なる状態ですが、定期的に覚醒しなければ、栄養や免疫などに不都合が生じるのかもしれません。そう考えると、両者の間に関連性があることは確かです。 マウスに関しては、体温と代謝を制御して冬眠状態を誘導する神経回路を発見しています。これによって、人為的に冬眠期間をコントロールすることも可能です。そうなると、人間の冬眠もできそうに思われます。実際、2030年代には火星に移住しようという計画もあり、それには人工冬眠が必要ともいわれています。ですから、あながち空想の世界でもありません。宇宙空間を移動する際の冬眠は、その間の食料や酸素、生命維持装置を必要最低限に抑えるために不可欠です。また、宇宙での隔離状態で生じるメンタルの問題も、冬眠していれば回避することができます。冬眠からの覚醒方法など、まだまだ課題はありますが、いずれは実現できると考えています。 神経科学では、体のダイナミックな動きに注目することが多く、睡眠のような動きの少ない現象は、かつては研究の対象になりにくいものでした。しかし実際には、睡眠中も脳はさまざまな活動をしており、覚醒中の行動とも強く関連しています。睡眠・覚醒のスイッチが解明された先にも、まだまだ研究の種は尽きません。国際統合睡眠医科学研究機構 櫻井/平野研究室脳内において神経細胞がさまざまな情報のやりとりを行う際に関わる物質のひとつ、神経ペプチドに着目した研究を行う。新しい神経ペプチドを探索し、その詳細な機能を明らかにすることを通じて、未知の脳の働き、とりわけ、睡眠・覚醒制御、体内時計、能動的低代謝(冬眠)などのメカニズム解明を中心にした研究テーマに取り組んでいる。URLhttps://sakurai-lab.com/PROFILE1993年筑波大学大学院医学研究科博士課程修了。1993年筑波大学基礎医学系講師、1999年筑波大学基礎医学系助教授、2004年筑波大学大学院人間総合科学研究科助教授、2008年金沢大学医薬保健学総合研究科教授を経て、2016年より現職の筑波大学医学医療系教授を務める。筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構副機構長を務める。新しい脳の機能や作動メカニズムの解明を目指し、研究を進めている。

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