TSUKUCOMM-55
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15 睡眠中は、脳が活発に活動しているレム睡眠と、大脳が休息しているノンレム睡眠が交互に繰り返されています。このような睡眠サイクルが作られる仕組みについて、国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)/医学医療系の櫻井武教授は、ノンレム睡眠中に脳の側頭葉にある扁桃体基底外側核で生じる一時的なドーパミン濃度の上昇が、レム睡眠の開始に不可欠であることを発見しました。 また、オレキシンという神経ペプチドを欠損して、人為的に睡眠障害であるナルコレプシーを発症させたマウスに、チョコレートを与えて喜ばせると、カタプレキシー(ナルコレプシー症状の一つで、レム睡眠関連症状とされ、感情が高まると全身の筋肉から力が抜ける)が誘発されますが、その直前に、扁桃体基底外側核におけるドーパミンレベルの一過的な上昇が観察されました。野生型マウスでは、このような現象は見られなかったことから、カタプレキシーは、オレキシンの欠乏によって、覚醒中にレム睡眠開始機構が働いて、引き起こされることが分かりました。 これにより、人為的にレム睡眠量を調節することが可能となり、記憶や自律神経系の制御におけるレム睡眠の役割を解明し、レム睡眠に関係する疾患の病態生理の理解や、治療法の開発につながることが期待されます。また、ドーパミン神経系に作用する薬物や、ドーパミン神経系に異常をきたす疾患において、睡眠に影響が生じるメカニズムが明らかになると考えられます。 ロボットやAIスピーカーなど、「人と会話する」機能を持った製品が普及しています。しかし、その声は、人の声と比べると平坦で、メッセージの「重み」を感じにくかったりします。ロボットやAIとのコミュニケーションが増えていく中で、聞き手である人間に対して、発話内容の重要性を伝える技術が求められています。 システム情報系の田中文英准教授は、2020年、内部に重りを組み込み、これを話す内容に応じてさまざまな軌道や速度で動かすメカニズムを持った小型ロボット「OMOY」を開発しました。このロボットを手に持って会話すると、ロボットの発話内容に対応した感情や意図を、重りの動きから感じ取ることができます。 そこで今回、このようなメカニズムにより、実際に、人間にどのくらい感情が伝わり、影響を受けるのかを調べました。94人の実験参加者に、あらかじめ準備したシナリオに基づいて、友人が待ち合わせに遅刻して怒りを覚える状況をイメージしてもらい、そこで、その友人からの連絡メッセージの仲介役としてのOMOYと対話してもらったところ、発話に合わせて内部の重りが作用しているときには、ロボットの発言に対して真剣さを感じる割合が増えることが分かりました。また、真剣さを感じると怒りの感情が平均23%抑制され、それと同時に、遅刻した相手に対する許しの気持ちも高まることが示されました。 このような技術は、AIやロボットを介したコミュニケーションにおいて、「想い」や「感情」などの人間的な要素を効果的に伝達することに役立つと期待されます。RESEARCH TOPICSRESEARCH TOPICSロボットやAIの発話に「重み」を付与する技術を開発!ドーパミンがレム睡眠を開始させる仕組みを発見!本研究で用いたロボット「OMOY」胴体内部に250gのタングステン製重りとその運動機構を備えている。重りは2つのサーボモーターによって二次元平面上をさまざまな軌道と速度で運動させることができる。睡眠・覚醒サイクルに応じた扁桃体基底外側核(①)と側坐核(②)におけるドーパミン量の経時変化扁桃体基底外側核では、ノンレム睡眠からレム睡眠に移行する直前に、ドーパミンレベルが一時的に上昇したが、側坐核や前頭前野では、このような挙動は観察されなかった。

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