TSUKUCOMM-55
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09師匠の稽古は特に厳しいことで有名で、初めての稽古は三遍稽古という、昔ながらのやり方でした。これは目の前で3回、同じ噺をやってもらうのですが録音させてもらえません。その場で見て聴いて覚えなければいけないのですが困ったことに3回とも少しずつ違う…。とにかく必死で覚えて聴いてもらいましたが、正座の仕方から始まって延々と注意されました。堅いフローリングに座布団も敷かずに正座したまま何時間も、血のにじむような稽古をつけてもらいました。今思えばそれも師匠の責任感の強さ故だと感謝してます。もう一回やりたいかというと絶対に嫌ですけど。他にも前座修行で辛いことは多々ありましたが、辞めたいと思ったことは一度もありません。 2017年に真打になりました。持ちネタは130ちょっとぐらいありますが、すぐにできるのは3つぐらいかな。寄席では、前の演者がやった噺と同種の噺はできないので、何をやるかをその場で決めます。だから後の出番の人ほど持ちネタが多くないといけない。真打になって初めて寄席でトリを取れるというのはそのためです。どんな落語家になりたいですか? 落語ってすごい、って思ってもらえるような高座ができるようにならないといけませんね。自分がかつて圓生師匠の音源でそう感じたように、初めて聴いた人にも落語の凄さ、面白さを分かってもらえる芸が出来る落語家になりたいです。 私の所属する五代目円楽一門会は落語協会や落語芸術協会といった団体に所属しておらず、五代目円楽師の門弟だけで活動しています。ですので、一門の中でだけ教わっているとみんな同じ芸風になってしまう。だから他派の師匠や講談・上方の師匠のところに積極的に出稽古に行くようにしています。おかげで、今じゃ師匠と全然違う芸風になってますが。以前、桂枝雀師匠が、落語は全身を使うスポーツだと言っていて、僕もそれはすごくいいなと思うんです。収まった感じではないスポーティーな落語をやりたい。明るく元気な雰囲気だけは失わずにいたいですね。筑波大で学ぶ後輩たちに メッセージを。 将来進むべき道って、早く見つけた方が良いといわれますけど、人にはそれぞれのタイミングがあって、然るべきターニングポイントはちゃんと巡ってくるものだと思います。もし、いろいろ迷っている人がいるとしたら、僕みたいに、卒業後何年もかかって、今、落語家になっている奴がいると知れば、気持ちも楽になるんじゃないかな。それに、つくばは僕のいた頃よりもずっと良い街になっています。もはや陸の孤島ではないので、ずっと充実した生活が送れるはずです。大学時代は、親から与えられた最後のボーナスステージみたいなもの。それを無駄にしないで欲しいです。あと、落語も聞いてくださいね!PROFILE さんゆうてい ちょうきつ (本名 渡辺 勝也)1978年 静岡県生まれ2001年 第一学群自然学類卒2004年 六代目三遊亭圓橘に入門。「橘也(きつや)」と命名され、見習いとなる2005年 大師匠・五代目三遊亭円楽の許しを得、前座となる2008年 前座修行を終え、二ッ目昇進2017年 真打昇進、「朝橘(ちょうきつ)」と改名現在は、所属の五代目円楽一門会主催「両国寄席」をホームグラウンドに全国各地で公演。

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