TSUKUCOMM-57
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TSUKUBA FRONTIER08的傾向です。目の前にある小さな快楽と、後で手に入る、より大きな快楽のどちらを選ぶか、というようなことを調べていくと、犯罪を犯す人には、そうでない人に比べて、目の前の快楽に飛びつきやすい、つまり、その後に起こるであろう(遅れてやってくる)家庭や人生への影響を割り引いて考えてしまう傾向があることが見えてきました。病院や自助グループにも協力してもらい、より多くのデータを集めてさらに詳しい分析を進めていけば、そのような衝動性や行動をコントロールできるようにするための介入方法を提案することができるかもしれません。思考パターンや認知のゆがみなど、性犯罪につながりうる他の要因の分析も加えれば、より効果的な治療プログラムが見つかるはずです。原因が分からなければ、適切な対応もできません。そのため、脳画像や遺伝子解析を用いた研究が進展してきています。 逸脱行動をやめられなくなるのは、それで快感が得られるからです。その記憶が蓄積されて、快楽を感じる脳の回路が過敏になります。痴漢や窃盗などの犯罪や、酒や薬物に対する依存症は、いずれも同じ仕組みが関わっています。ただ、そのような脳の働きを鎮める薬はありません。仮に薬があったとしても、快楽で興奮する神経系は共通なので、日常にある他のさまざまな快感まで失われることになります。それでは生きる楽しさそのものがなくなってしまいます。ですから今のところ、こうした逸脱行動を治すには、心理療法に期待するしかないのです。心の働きと脳の働き 逸脱行動をめぐる心理学の理論は、古典的なものから新しいものまで、一般向けにも比較的よく紹介されていますが、それだけで心理学を語ることはできません。最近では、生物学的なアプローチにも注目が集まるようになっています。犯罪と関連づけて遺伝子や脳の仕組みを調べることは、優生学的な考え方を助長しかねないことから、長い間、タブーとされてきました。しかし突き詰めると、心の働きは脳の働き。正しい刑務所で知る人間の多様性 一見、気の重い分野のように思われる犯罪心理学ですが、学生時代、実際に刑務所や拘置所でさまざまな犯罪者に面接してみると、教科書でしか読んだことのないような珍しい障害を持っている人や、常識では考えられないような行動パターンの人が

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